子育てを「孤育て」にしないために - Xで”ポジティブな会話”を広げるアイディアとは?
2020年からスタートした「#PoweredByposts」。この企画は、Creative × Xで社会課題の解決を目指すというもの。広告代理店のクリエイターやプランナーの皆様からアイディアを募集し、受賞したアイディアはNPOとX Next(ツイッターネクスト)*1とのパートナーシップにより、実際のX広告キャンペーンとして実施されます。
今回は、2020年受賞の株式会社電通 関西支社CRD局のチーム「SOBAYA」のメンバー、國富友希愛氏、遠山芳実氏、川村志穂氏、そしてX Nextチームの中川百合に企画立案のプロセスから選出、実施までを伺いました。
*1. X Nextは、多様な業種の広告主に向けたXのブランドキャンペーン戦略やアイディアの支援をしているチームです。
X上では誰でも「お父さんお母さん」になれる
―― はじめに「#PoweredByposts(以下、PBT)」について詳しく教えてください。
中川:PBTは、元々スペインとイギリスで行われた企画を日本で展開したものです。昨年はXの中でも多くの社会課題が話題になり、様々な声が上がっていました。そんな時だからこそ、「本来Xというプラットフォームで働く人間としてやりたかったことに取り組もう」と考え、PBTを実施することになりました。
具体的な内容は、広告代理店のクリエイターの皆様に向けて、Xが掲げる5つの社会課題である「環境」、「表現の自由・人権」、「緊急時の対応・災害復旧」、「平等」、「インターネットに関する安全と教育」の中からテーマを選んで、Xを活用してその課題にアプローチするキャンペーンアイディアを考えていただくコンペです。受賞された方には、その企画に紐づくNPOも選んでいただき、その方々と私たちX Nextが一緒になってキャンペーンを実施します。昨年は初めての取り組みだったのですが、パイロット版として電通さんと博報堂さんにご案内したところ、100作品以上ご応募いただき大変ありがたかったです。
――チームSOBAYAの皆さんがどのような思いを持ち、どんな経緯で応募に至ったのか、教えてください。
國富さん(以下、國富):まず初めに私たちのチーム名「SOBAYA」ですが、自分たちの「そば」にある課題を解決する、という思いを込めて名付けたものです。身近にある課題を考えたときに、私自身がひとり親であることから、そこで感じた課題について取り上げたいと考えました。
日々の生活の中で、ひとり親の方々が気持ちを共有するコミュニティにはなかなか出会えません。また、Xには数多くの利用者がいますが、どうしても自分が見たい情報しか見えなくなるフィルターバブルに陥りがちです。例えば、X上に育児のグループがあるとしても、両親がいる育児グループを前に、ひとり親の人たちは入りづらい雰囲気を感じることもあります。そうした人々の気持ちをすくい上げる仕組みを作りたいと思い、企画化しました。
株式会社電通 関西支社CRD局 コミュニケーション・プランナー 國富友希愛氏
――チームSOBAYAでは、他のアイディアも出されていたのでしょうか。
川村さん(以下、川村):実はこの「#Xお父さんお母さん」以外にもPBTに応募したアイディアがあり、マタニティハラスメントをテーマにしたものでした(※こちらの企画もファイナリストに選出)。私にも子どもがいるのですが、一緒にチームSOBAYAとして参加させてもらって、國富とは一見同じに見える社会課題でもアプローチや違ってとても面白かったですね。
遠山さん(以下、遠山):私は地方の不動産屋さんとXを絡めて、移住のリアル を発信する企画を考えました。移住のシビアな現実を一番理解している地元の不動産屋さんにXを活用してもらう企画を思い付いたとき、「もうこれはグランプリだ」と思いました。残念ながら受賞には至りませんでしたが(笑)。
「#Xお父さんお母さん」は、アパートの住人全員で子育てをするという大阪にあった実話を元にしています。チーム内でその話をしたところ、國富の課題意識にも重なり、そこにいくつかのアイディアを加えて出来上がりました。チームSOBAYAは思考のレイヤーが全然違う3人だったので、この2人とチームを組めたことは幸運でした。
株式会社電通 関西支社CRD局 クリエーティブ・ディレクター 遠山芳実氏
中川:「#Xお父さんお母さん」は、X上でなら誰もがお父さんやお母さんになって子育てできる、というポジティブな実現イメージがすぐに想像できました。最終審査にも立ち会わせていただきましたが、ポジティブな会話が広がるアイディアの良さとお三方の想いの強さが説得力につながったと思いました。
ひとり親当事者ではなく、ひとり親の"味方"の声を可視化するXアプローチ
――企画からキャンペーン実施まで、どのように進められたのか教えてください。
國富:ひとり親応援サイト「イーヨ」を運営されているNPO法人 しんぐるまざあず・ふぉーらむさんと一緒に企画に取り組みました。「#Xお父さんお母さん」というハッシュタグを付けて、今まさに子育てに奮闘している方、育児を終えた方、今子どもがいなくてもかつて「子どもだった人」にX上の架空のお父さん・お母さんとなってもらい、子育てを乗り越える知恵やエピソードを発信してもらう、という企画です。
Xさんも交えて3社で何度もミーティングを重ねる中、私たちSOBAYAが考えるひとり親の課題と、現場で支援されている人から見たひとり親の課題が違うことも見えてきました。
――具体的にどんなところに違いがあったのでしょうか。
國富:一番切実に感じたのは、ひとり親の中での経済環境や価値観の違いです。私はひとり親だけれども、私=ひとり親ではないこと気付きました。例えば、「1日1食しか食べられない」などと経済的な困窮を訴える方が想像以上に多く、そういった人たちにどんな言葉をかけるべきか。私がかけてほしい言葉とは違うはずなので、とても悩みました。
私は普段、コピーライターとして言葉の表現を扱う仕事をしているので、今回はその経験が活きたと感じています。広告表現で使用すると物議を醸しそうな言葉への配慮は日頃からよく考えているので、慎重に考えていきました。
川村:ひとり親が抱える悩みは、子どもの年齢や境遇で異なります。そういった点を事前に把握していたので、悩みの種類ごとに分類してコピーを作り、発信していきました。
中川:このあたりの表現には、心を砕いてくださったと思います。ひとり親の皆さんの役に立ちたくてやっていることでも、かえってその人たちが必要以上にX上で注目されてしまい、批判の標的になってしまうリスクもあります。だからこそ、チームSOBAYAの皆さんがポジティブな言葉で課題に焦点を当てて、何度もツイートコピーを書き直し、NPOの方々と打ち合わせを重ねる姿勢に感激しました。
國富:社会課題の解決には特定の正解がありません。だからこそ望まない方向への議論を回避する唯一の方法は、色々な人が課題について知り、対話が生まれることだと思っています。
川村:NPOの方々とも、ターゲット論は話し合いを重ねました。普段、彼らがサポートするのはひとり親の当事者の方たちですが、今回X上でアプローチしたいのは、ひとり親の「周りの人たち」。その方々に課題に対する理解を深めてもらったり、サポーターになれることを知ってもらったりして、最終的にひとり親の当事者の方たちを助けてもらうことが狙いです。普段のコミュニケーションとは特性が違うことをご理解いただき、ご協力いただきました。
株式会社電通 関西支社CRD局 アート・ディレクター 川村志穂氏
遠山:Xでは、どのような目線を持って発言するかも重要です。SNSの特性として主催者側から「これが正解です」という言い方をすると、炎上するリスクが出てきます。あくまでも我々は、困っている人たちに対してヒントを出すという立場。喉元まで出かかる「かっこいい正解」みたいなことは、あえて言わないことです。正解はそれぞれの受け手が考えることですし、受け手に委ねることを意識しました。これは今後、他のキャンペーンを行う上でも非常に大事な姿勢になると感じています。
川村:言葉の表現や言い回しに関しては、國富が最後まで調整を行い、ニュートラルかつフラットな言い方を目指しました。我々から何かを訴えてお涙頂戴という展開では、やはり本来私たちがやりたかったこととは違ってきてしまいます。
遠山:そもそもコピーライティングとは違うクリエイティブなのかもしれません。職業柄、我々はコピーを磨いて強く主張したい欲も出てきますが、それは全て捨ててもよいのだと感じました。最終的には、「我々がもしその人の隣にいるとしたら、どんな声掛けをするか」という気持ちを表現した言葉になりました。
中川:チームSOBAYAの皆さんのアイディアが強かったところは、根幹にあった「X上で誰もがお父さんお母さんになれる、ひとり親の味方になってくれる人を増やす」というコンセプトが最初から最後までブレなかったことです。議論を起こすことや声を発してもらうことと、そのために言葉の細部を調整することは、コンセプトのためのパーツでしかありません。パーパスがしっかりしていれば、ディテールはあくまで目的達成の手段であることを感じさせられました。
Xはプラットフォームではなく「導き屋さん」
―― X Nextチームと協働する中で、新たな気付きがあれば教えてください。
遠山:例えば、我々がついコピーワーク的な進め方をしていた時には、「届けたい人に届けるためには、もっと砕けた言葉にしたほうがいい」といったアドバイスをいただきました。実際にその視点を取り入れることで、クリエイティブ全体に丸みが出たり、説教臭さが減ったりしたので、その辺りは本当に勉強になりました。
実は一度企画案を提出して「あー終わった」と思った数日後に、中川さんから「最後にもうちょっとコピーワークを粘ってみませんか」という愛のある檄のメールをいただきました。もう仕事完了のつもりで一杯やろうとしていたビール瓶を落としましたね(笑)。もう勘弁してくれと正直思いはしましたが、そこまで熱意のあるサポートをしてくださることに驚きました。
中川:言い訳になりますが(笑)、チームSOBAYAの皆さんのアイディアや思いの強さをもっと活かしたいと思っていました。元々あった生々しいメッセージを最大限に表現してもらいたい、Xオーディエンスに届けたいという気持ちでした。X上ですでにあるひとり親や子育てに関する日々のツイートを改めてSOBAYAの皆さんと見返しましたよね。
遠山:信頼関係がなければここまで一緒にこだわり抜くことはできなかったと思います。そういった意味でX Nextさんも含めてチームSOBAYAだと思っています。
X Japan株式会社 X Next シニアブランドストラテジスト 中川百合
――PBTへの参加を通して、気づきやご感想を教えてください。
國富:X広告には様々なサービスがあることも発見でした。「こんなターゲティングもできます」「こんな広告メニューの使い方ができます」と色々なご提案をいただき、多くの学びになりました。X社の皆さんと事前にアイディアの骨子を共有して信頼関係を築けていたからこそ、いただいたアドバイスをすぐに実装できたと感じています。
川村:受賞という素晴らしい結果に加えて、今回企画を実行に移せたことでラッキーな出会いがありました。XさんとNPOの方々とチームになれて、関係性ができたことをとても嬉しく思います。
遠山:X社の皆さんは普段、Xのことを公共の会話の場を提供する "プラットフォーム"であると話されます。でも今回、Xにはプラットフォームとしての役割を超えた様々な可能性が満ち溢れていることを感じました。共通の話題でつながることができるハッシュタグや、特定の会話に対する共感や自身の考えを示すことができるリツートなど、身近な課題の解決に役立つ様々なツールが揃っていると思います。X Nextチームの皆さんのコンサルティング能力や提案スキルも同様です。
だからこそ、プラットフォームというよりは「課題解決屋さん」または「導き屋さん」という印象が強いですね。そのポテンシャルに助けられた立場としては、今後はそういった部分をもっと打ち出していってもよいのではないかと思いました。
中川:今回、チームSOBAYAの皆さんとのコミュニケーションを重ねる中で、今まで形が見えなかった「こうしたい」というものにはっきりと気づくことができました。
私たちは広告代理店の方々のようなクリエイティブコンテンツを作る立場ではありませんし、キャンペーンを主催するクライアントでもない。そんな立ち位置からの提供価値を模索する中、NPOさんの思いやクリエイターの皆さんが考えたアイディアをX上で輝かせる伴走者という役割が果たせたのであればとても嬉しいです。今まさに遠山さんにご評価いただけた点は自信にもなりましたし、今後、X Nextチームの強みとして確立していきたいですね。