視点

変化が続く1年のなかで進化したB2Bマーケティング

この1年間に起きたことを振り返ると、変化が多かったなどという表現では足りない気がします。特にB2Bテクニカルマーケターの仕事は、パンデミックによって根本から変わりました。バイヤーとの商談の方法も変化し、予想もしなかった難題が降りかかりました。こうした変化を詳しく把握するため、アメリカのTwitterとベイン・アンド・カンパニー社は、1年間にわたりマーケターとバイヤーを対象に、パンデミックの仕事への影響を調査しました。具体的には1年間にアンケート調査を3回実施し、新たに生じている傾向やパターンを探りました。

その結果わかったことは、マーケターもバイヤーも、1年以上にわたり何度も方向転換を繰り返しているうちに明らかにこの状況に慣れつつあるということです。しかし、中には際立った成功を収めているケースもありました。調査結果を詳しく掘り下げることで、B2Bマーケターがニューノーマルにおいて成功を続けるための秘訣が明らかになりました。 
 

経済は再び回復軌道に乗る

今回の調査で、バイヤーとマーケターの双方が、新しい年に向けて勢いを取り戻していることがわかりました。2020年の第二四半期から2021年の第二四半期までの調査では、収益が増加したと答えた回答者数が前年比200%増となりました1

実際に直近の調査では、バイヤーの回答者の76%が積極的に新しいテクノロジーを導入したと答えています。これは前年比20%の増加です2


世の中が変化しても変わらないものとは?

私たちはつい変化の大きさにばかり目をやりがちですが、今回の調査では、B2Bマーケットの中にはまったく変化しなかった部分もあったという興味深い事実が明らかになりました。たとえば、新規導入に関してバイヤーが指針としているのは、自身が所属するコミュニティからの情報である、というのが変わらない回答でした。実際に99%という驚くほど高い割合のバイヤーが、他のどの情報源よりも同業者の意見を信頼していると答えています3。従って、B2Bマーケターはターゲットとするわずかな意思決定者に直接リーチすることを考えるだけではなく、B2Bコミュニティの中で認知度を高め信頼を築くことにも力を入れる必要があるのです。

”B2Bバイヤーは、同業者のおすすめを単なる参考意見とは考えていません。非常に重要なリサーチだと考えています。”


私たちが気づいたもう一つの変わらない傾向は、鍵を握る意思決定者に関するB2Bマーケターの認識が、バイヤー側と異なっていることです。B2Bマーケターは上位の意思決定者にリーチすることにとらわれる傾向にありますが、一方でバイヤーは導入の意思決定を行う上で重要な役割を果たしているのは中間管理職であると考えているのです。調査対象のB2Bバイヤーの半数が、テクノロジー導入の意思決定に関して大きな影響力を持つのは部長クラスであると回答しています4。このことはパンデミックの間ずっと言われ続けていることであり、そうした力関係はパンデミックが終わった後も変わらない可能性があります。
 

マーケターが選択した2つの変化

経済の混乱や予算の急激な変化を受けて、マーケターへの要求はパンデミックの間に明らかに増えました。マーケター側の回答者の半数以上が、2020年第二四半期以降、自分が担当するパイプラインやキャンペーンのターゲットが増えたと答えています5。しかも、彼らは戦術も変えなければなりませんでした。バイヤーが突然そろって在宅勤務となり、対面のイベントがリモートで行われる可能性が生じたことで、B2Bマーケターはバイヤーにリーチする方法をただちに切り替える必要に迫られたのです。

彼らがとった方法の一つは、ソーシャルメディアなどのデジタルチャネルへの投資を増やし、それらのチャネルを利用してブランドの構築や共感を得られるメッセージの発信などを行うことでした6。もう一つは、対面での会議をオンラインに切り替えたことでした。多くの場合でソーシャルメディアプラットフォームが国際的な会議の場として利用されました。マーケターの約87%が、オンラインイベントへの投資が増加したと回答しています。これが功を奏したことから、この変化は永続的なものになると予想されます7

”こういう誰もが参加できるオンラインイベントの方が好きかも!”


B2Bマーケターが適応して前に進むためには

1. 共感によって人々を導く

需要を作り出すことは常にB2Bマーケティングの重要な要素ですが、今回の調査で、トップマーケターたちは対広告ターゲットとしてではなく、対「人」として顧客に語りかける姿勢を重視していることが明らかになりました。メッセージングをパンデミックに関連した内容に切り替え、人々が日常生活の中で直面している状況を取り上げるケースが多く見られました。

これを効果的に行ったブランドの一つが、#ReinventWorkキャンペーンを展開したSlackです。同社はこのキャンペーンを通じてリモートワークの未来について新たなイメージを発信すると同時に、生産性を高めながら快適に仕事をするためのヒントやコツを提供しました。

”1年間もがき苦しんだ末に、ようやく行く手に光が見えてきました。その光は私たちに元来た道を戻るのではなく、働き方を見直そうと誘いかけています。今こそ新しいものを作り出す時です。”


2. 自社ブランドに投資する

パンデミックは私たちに、世界は一瞬にして変わり得ることを示しました。急速な変化を生き延びるためには、それを乗り切る可能性が最も高いもの、すなわち自社ブランドに投資することが重要です。調査の結果、B2Bマーケターの60%以上がブランドの認知度を高める手段としてデジタルチャネルへの投資を増やし、また約70%がこの変化は今後もずっと続くと予想していることがわかりました8

たとえばSalesforceは、Leading Through Changeというビジネス上のアイディアや解決策を紹介する連載記事を開始しました。環境が急速に変化する中で、これはB2Bマーケティングのコミュニティにとって大変価値のあるリソースになりました。このリソースは何か特定の商品を売り出すためではなく、Salesforceというブランドに良い意味で注目を集めることを目指したものでした。 

”「#LeadingThroughChange:中小企業のみなさんへのアドバイス」への登録はお済みですか?今すぐリマインダーを設定しましょう!”


3. オンラインイベントを継続する

今回の調査を見る限り、イベントは今後オンラインと対面式を組み合わせた形での開催に向かっていると言って間違いありません。一部の人は実際に参加し、一部の人は利用可能なオンラインサービスを利用するという形です。なぜなら、結局のところバイヤーがそれを望んでいるからです。64%が今後もオンラインイベントへの参加を継続すると答えています9

”#MSBuildとかのイベントが全部オンラインになって一番困ってるのは、Tシャツと靴下が足りなくなってきたこと”


オンラインイベントは、リーチできるオーディエンスを増やせるだけでなく、参加者同士のつながりを深めることもできます。このことを実現したのが、人気のカンファレンスイベントの#MSBuildと#MSIgniteをオンラインに移行したMicrosoftでした。

「イベントを対面式からオンラインに移行したことで、世界中のオーディエンスにリーチできたばかりか、当社のソーシャルチャネルをイベントの拡張版として使うこともできました。結果として誰もがアクセスしやすいイベントになりました」と、Microsoftのイベントマーケティングコミュニケーション担当ディレクターのJoanna YeeHuiSze氏は述べています。 

このような新たなアクセス方法は、参加者の増加というプラスの影響をもたらしました。

「参加者は対面でのイベントの10倍以上に増える可能性があります。多くの方に受け入れられ、意欲を示していただいたことに大変驚きました。結果として、参加者の構成も大きく変化しました。これまで米国が80%、海外が20%だったイベント参加者の内訳が、現在では米国が70%、海外は30%になっています」とYeeHuiSze氏は話しています。

”Microsoftのプログラマー@shanselmanが今年の#MSBuildに登場します。皆さんにもぜひ参加してほしいそうです。(私たちもそう思っています)”


Microsoftでは、オンラインイベントによって参加者や行動に関するデータがより有益なものになったことも明らかになりました。

「今後の意思決定においてデータは非常に重要です。どのセッションに多くの参加者が集まったか、オンデマンドの視聴者数はどれくらいか、また投票機能を利用することで関心の高いテーマなどの有益な情報も収集できます。こうした情報からオーディエンスについての理解を深め、ニーズに合わせたイベントが実施できます」とYeeHuiSze氏は述べています。

#MSBuildと#MSIgniteでの成功を受けて、Microsoftは今後対面でのカンファレンスが復活したとしても、すべてのイベントでオンラインでの参加を可能にする意向を示しています。

「イベントや体験することへの取り組みはうまくいくと確信しています。この取り組みには驚くべきほどの成長をもたらすポテンシャルがあります。近いうちにオンラインと対面の両方が当社の中心的なイベント戦略になり、あらゆる人に向けて効果的でインタラクティブかつユニークな体験を提供できると考えています」とYeeHuiSze氏は述べています。

間違いなく、B2Bのバイーとマーケターにとってのニューノーマルが始まっています。共感マーケティングやデジタルチャネルを通じたブランド構築、オンラインイベントの時代がやってきたと言えるでしょう。


著者:Christian Eberhardt(Twitterテクノロジー&テレコム担当ディレクター)

Christian Eberhardt(@eberhardt)は、Twitterのテクノロジークライアントソリューションチームのリーダーとして、Google、Microsoft、Apple、Salesforceなどのブランドとのパートナーシップを担当。Twitter入社前は、MicrosoftおよびAmazonにてリーダーとして事業開発に従事。

出典

1 ベイン/Twitter Technology Purchasing Trends Buyer Survey(フェーズ1 N=289、フェーズ2 N=284、フェーズ3 N=250)、2021年4月、バイヤーへの質問18:過去3か月間、貴社の製品/サービスの売上に新型コロナウイルス感染症はどのような影響を及ぼしましたか?やや増加した、大きく増加した。
2ベイン/Twitter Technology Purchasing Trends Buyer Survey(フェーズ1 N=289、フェーズ3 N=250)、2021年4月、バイヤーへの質問19:あなたは現在、以下のうちのいずれかの活動を行っていますか?新しいテクノロジーの購入
3 ベイン/Twitter Technology Purchasing Trends Buyer Survey(N=100)、2021年4月、バイヤーへの質問6:貴社にとって、新しい製品/サービスを見つける際に最も信頼できる情報源は何ですか?
4 ベイン/Technology Purchasing Trends Survey フェーズ2(N=300)
5 ベイン/Twitter Technology Purchasing Trends Marketer Survey(N=100)、2021年4月、マーケターへの質問11:新型コロナウイルス感染症の流行が始まってから、マーケティングのターゲットはどのように変化しましたか?
6 ベイン/Twitter Technology Purchasing Trends Marketer Survey(N=100)、2021年4月、マーケターへの質問11:新型コロナウイルス感染症の流行が始まってから、マーケティングのターゲットはどのように変化しましたか?
7 ベイン/Twitter Technology Purchasing Trends Marketer Survey(N=100)、2021年4月、マーケターへの質問18:以下のマーケティング活動のうち、新型コロナウイルス感染症の流行が始まってから、減少したもの、増加したもの、ほとんど変わらないものはどれですか?
8 ベイン/Twitter Technology Purchasing Trends Marketer Survey (N=100)、2021年4月マーケターへの質問18:以下のマーケティング活動のうち、新型コロナウイルス感染症の流行が始まってから、減少したもの、増加したもの、ほとんど変わらないものはどれですか?これらの変化のうち、新型コロナウイルス感染症の流行収束後もずっと続くと思うものはどれですか? 
9 ベイン/Twitter Technology Purchasing Trends Buyer Survey(N=250)、2021年4月、バイヤーへの質問9:新型コロナウイルスの流行前と比較して、今後オンラインイベントにどの程度参加する可能性がありますか?

November 04, 2021
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